オランダに学ぶ】世界が注目する認知症ケアの最前線〜「普通に生きる」を支える社会の仕組み〜

世界的な高齢化が進む中、認知症に対する医療やケアのあり方は、すべての国にとって急務の課題となっています。その中でも、独自の哲学と革新的なアプローチで世界中から熱い視線を集めているのが「オランダ」です。

本記事では、オランダにおける認知症の現状から、世界的に有名な認知症ケア施設である「ホグウェイ(De Hogeweyk)」の取り組み、そして国家レベルでの最新の動きまで、客観的なデータに基づき詳しく解説します。

1. オランダにおける認知症の現状と国家の取り組み

「自由と寛容の国」と呼ばれるオランダでは、個人の尊重と自律を重視した社会制度が根付いています。まずは、オランダ国内の認知症に関する現状と、国を挙げた取り組みについて見ていきましょう。

在宅ケアを中心とした社会システム

オランダの「認知症国家戦略」等のデータによると、国内には約28万人の認知症を抱える人々がおり、そのうち65歳未満の若年性認知症患者は約2万人と推計されています。

特徴的なのは、その生活環境の割合です。オランダでは、認知症患者の約70%が自宅で生活しており、施設に入所しているのは約30%にとどまります。これには、オランダが長期入院から在宅ケアへと大きく政策をシフトした背景があります。「地方自治体」を中心に、地域コミュニティの人々が参加する「住民参加型の福祉」が実現しており、テクノロジーの活用やマントルゾルフ(家族や親しい人による無償の介護)の支援プログラムも充実しています。

2023年「ハーグ共同宣言」と国際的なリーダーシップ

オランダは国内のケアに留まらず、世界的な認知症対策においてもリーダーシップを発揮しています。

2023年10月2日、オランダのハーグにて、同国の保健福祉スポーツ省の主催で「認知症打破(Defeating Dementia)」に関するハイレベル会合が開催されました。全世界で5,500万人以上の人々が認知症を患う中、この会議ではG20諸国や医療セクター、研究者たちが集結し、「認知症に関する世界行動計画(グローバル・アクション・プラン)を2035年まで延長するよう求める」という重要な共同宣言(ハーグ共同宣言)が採択されました。オランダは、認知症を公衆衛生の危機と捉え、国際的な協力関係の促進に大きく貢献しています。

2. 世界が注目する認知症ケア施設「ホグウェイ」とは?

オランダの認知症ケアを語る上で欠かせないのが、アムステルダム郊外の町、ウィースプにある認知症ケア施設「ホグウェイ(De Hogeweyk)」です。「認知症の村」とも呼ばれるこの施設は、従来の病院や介護施設の常識を覆す画期的なモデルとして、日本を含む世界各国から視察団が訪れています。

「認知症になっても普通に生きる」を実現する村

ホグウェイは、自宅での生活が困難になったと認定された「重度の認知症」の方々が暮らす非営利の養護施設です。

施設の最大の特徴は、敷地全体が一つの「村」のように設計されている点です。敷地内にはスーパーマーケット、カフェ、レストラン、美容室、映画館、クラブ活動のスペースなどが完備されており、入居者は安全な敷地内で自由に歩き回り、買い物をしたり、カフェでお茶を楽しんだりすることができます。

「大切なのは、病気ではなく、人間である」という理念のもと、医療モデルから社会関係モデルへとパラダイムシフトを起こしたのがホグウェイの取り組みです。

徹底した「自己決定権」と「自由」の尊重

多くの国では、「徘徊しては危ない」という理由から、認知症患者の行動を制限しがちです。しかしオランダでは、「本人の自由意志と自己決定権の尊重」が何よりも優先されます。

ホグウェイでは、入居者一人ひとりのこれまでの生い立ち、価値観、趣味嗜好に基づいた「ライフスタイルマッチング」が行われています。都市型、文化型、伝統型など、自分と似た価値観を持つ人々と共同生活を送ることで、ストレスのない環境が提供されています。

散歩をするのも、趣味の活動をするのも、食事の時間を決めるのも本人の自由です。「危ないから」と制限するのではなく、夜間の見守りにはモーションセンサーやマイクなどのIT技術を活用するなど、安全を確保しながら自由を最大限に保障する工夫が凝らされています。

3. 医療モデルから「社会関係モデル」への転換

オランダのケアの根底にあるのは、「認知症患者=保護すべき病人」という旧来の医療モデルからの脱却です。

ライフスタイルと尊厳の維持

かつての日本の高齢者施設などで見られた「管理しやすい集団生活」ではなく、オランダでは「その人がその人らしく、最期まで普通の生活を送ること(クオリティ・オブ・ライフの向上)」に重きを置いています。

例えば、オランダ東部の別の介護施設では、田舎の並木道を映像にしたビデオを使って「バスの乗車ごっこ」を取り入れるなど、患者の心を落ち着かせ、楽しみを提供する型破りな治療方式も開発されています。これも、単に薬で症状を抑え込むのではなく、社会とのつながりや心の安らぎを提供する「社会関係モデル」の一環と言えます。

4. 日本への示唆と今後の展望

団塊の世代がすべて75歳以上となる「2025年問題」を目前に控える日本にとって、オランダの認知症施策は非常に多くの示唆を与えてくれます。

日本でも「認知症カフェ」などの取り組みが進んでいますが(世界的にはアルツハイマーカフェという名称が一般的です)、制度の枠組みだけでなく、「社会全体で認知症の人をどう受け入れ、彼らの自己決定権をどう守っていくか」という根本的な哲学の共有が不可欠です。

ホグウェイのような大規模な「村」をそのまま日本で作るのは土地や法規制の面でハードルがあるかもしれません。しかし、「管理」から「共生」へ、そして「医療」から「生活・社会」への転換というオランダのビジョンは、これからの日本の介護・福祉のあり方を再考する上で、強力な羅針盤となるはずです。

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