要介護認定を受けた方が選択できる入所施設・居住系サービスには、大きく分けて公的な「介護保険施設」と、民間事業者が主体となって運営する「有料老人ホーム」や「高齢者向け住まい」が存在します。本記事では、厚生労働省や国土交通省などが公表するデータに基づき、各施設の特徴、要介護度などの入居条件、施設数・定員、および必要となる費用について事実のみを提示します。
1. 介護保険施設(公的施設)の種類とデータ
介護保険施設は、介護保険法に基づいてサービスが提供される施設です。厚生労働省の「令和5年(2023年)介護サービス施設・事業所調査」によると、これら施設の定員数は合計で100万人を超えています。入居一時金は発生せず、民間施設と比較して自己負担額を低く抑えられる設計となっています。
1-1. 特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)
常時介護が必要であり、居宅での生活が困難な高齢者を対象とした生活施設です。
- 対象者: 原則として「要介護3」以上の認定を受けた方(特例により要介護1・2の入所が認められる一定の条件が存在します)。
- 施設数と定員: 令和5年10月1日時点で8,548施設、定員は597,973人です。前年度(令和4年)と比較して施設数は54施設、定員数は5,219人の増加となっています。全体の利用率は94.7%です。
- 費用の目安: 入居一時金は0円です。月額費用は、介護保険サービス費の自己負担(原則1割〜3割)、居住費、食費、日常生活費を含め、約10万円〜15万円(要介護5・個室等の条件により変動)となります。
- 出典: 厚生労働省「令和5年 介護サービス施設・事業所調査」、厚生労働省「サービスにかかる利用料」
1-2. 介護老人保健施設(老健)
医療ケアやリハビリテーションを提供し、在宅復帰を目的とする施設です。
- 対象者: 「要介護1」以上の認定を受けた方。
- 施設数と定員: 令和5年10月1日時点で4,273施設、定員は370,739人です。前年度比で施設数は6施設の減少、定員は584人の減少となっています。全体の利用率は87.5%です。通常、3〜6ヶ月ごとに退所・在宅復帰の判定が行われます。
- 費用の目安: 入居一時金は0円です。月額費用は約8万円〜15万円程度です。
- 出典: 厚生労働省「令和5年 介護サービス施設・事業所調査」
1-3. 介護医療院
主として長期にわたり療養が必要な要介護者に対し、日常的な医学的管理や看取り、ターミナルケアを提供する医療施設です。
- 対象者: 「要介護1」以上の認定を受けた方。
- 施設数と定員: 令和5年10月1日時点で730施設、定員は43,824人です。前年度比で施設数は113施設の増加、定員は5,665人の増加となっています。利用率は91.8%です。
- 出典: 厚生労働省「令和5年 介護サービス施設・事業所調査」
2. 民間施設・高齢者向け住まいの種類とデータ
民間企業や社会福祉法人が運営する施設には、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などがあります。厚生労働省の資料(令和5年時点)によれば、有料老人ホーム全体の施設数は16,543施設、定員数は645,845人となっており、介護保険施設の総定員に迫る規模です。
2-1. 介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)
都道府県等から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設であり、施設の介護スタッフが24時間体制で介護サービスを提供します。
- 対象者: 施設ごとに異なりますが、多くは「要介護1」以上を対象としています。
- 費用の目安: 入居一時金は0円〜数千万円と幅があります。月額費用は、定額の介護保険サービス費、家賃、管理費、食費を含め、平均約15万円〜35万円です。
- 出典: 厚生労働省「介護サービス概算料金の試算」
2-2. 住宅型有料老人ホーム
食事や生活支援サービスを提供する高齢者向けの居住施設です。介護が必要になった場合は、外部の訪問介護やデイサービスなどの居宅サービスと個別に契約して利用します。
- 対象者: 自立状態の方から要介護認定者まで幅広く受け入れています。
- 費用のデータ: さがしっくすの調査データに基づく全国の料金実態では、入居一時金の平均値が125万円(中央値18.2万円)、月額利用料の平均値が16.7万円(中央値14.1万円)です。
- 注意点: 介護サービスの利用量に応じた自己負担額が月額利用料とは別に発生するため、要介護度が高い場合は総費用が介護付き有料老人ホームを上回るケースが存在します。
2-3. 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
認知症の高齢者が、5〜9人を1ユニットとする少人数の共同生活住居において、専門スタッフの支援を受けながら生活する地域密着型サービスです。
- 対象者: 施設と同一の市区町村に住民票があり、医師から認知症の診断を受けている「要支援2」または「要介護1〜5」の方。
- 費用の目安: 入居一時金は0円〜数十万円、月額費用は15万円〜20万円程度です。
- 出典: 厚生労働省「介護サービス概算料金の試算」
2-4. サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づく登録制度によって運営される、バリアフリー構造の賃貸住宅です。安否確認と生活相談サービスが必須で提供されます。
- 登録状況: 国土交通省・厚生労働省所管の公開データによると、令和7年(2025年)4月末時点の登録件数は8,328件、戸数は289,924戸です。
- 対象者: 60歳以上の高齢者、または60歳未満であっても要介護・要支援認定を受けている方。
- 費用の目安: 一般的な賃貸契約と同様に敷金(家賃の数ヶ月分)が必要となり、月額利用料は家賃・共益費・基本サービス費を含めて10万円〜30万円程度です。
- 出典: 国土交通省・厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」
3. 介護期間と費用の全国実態データ
公益財団法人生命保険文化センターが実施した「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」において、介護期間および介護費用の実態に関する以下のデータが示されています。
介護期間の分布と平均
介護が始まってからの平均介護期間は「4年7カ月」です。期間ごとの割合は以下の通りです。
| 介護期間 | 全体に対する割合 |
| 6カ月未満 | 6.1% |
| 6カ月〜1年未満 | 6.9% |
| 1年〜3年未満 | 31.5% |
| 3年〜4年未満 | 11.6% |
| 4年〜10年未満 | 27.9% |
| 10年以上 | 14.8% |
介護にかかる費用の平均
- 一時費用(住宅改修や備品購入等): 平均47万円
- 在宅介護の月額費用: 平均5.2万円
- 施設介護の月額費用: 平均13.8万円
- 月額費用(全体平均): 平均9.0万円
施設における介護は、在宅での介護と比較して月額で約8.6万円上回る結果となっています。
4. 施設入所における費用負担軽減制度
公的介護保険制度には、自己負担額が過大にならないための各種負担軽減措置が設けられています。
4-1. 高額介護サービス費
同じ月内に利用した介護保険サービスの自己負担額(1〜3割分)の合計が、所得区分ごとに定められた上限額を超えた場合、申請により超過分が払い戻される制度です。
| 所得区分(設定区分) | 1ヶ月の負担上限額(世帯) |
| 生活保護受給者等(第1段階) | 15,000円 |
| 市町村民税世帯非課税等(第2〜3段階) | 24,600円 |
| 一般所得者(年収約770万円未満) | 44,400円 |
| 現役並み所得者(年収約770万円〜1,160万円未満) | 93,000円 |
| 現役並み所得者(年収約1,160万円以上) | 140,100円 |
出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料」
4-2. 特定入所者介護サービス費(補足給付)
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などの介護保険施設へ入所、またはショートステイを利用する際、低所得者(市町村民税非課税世帯など)を対象に、施設利用時の「居住費(滞在費)」と「食費」の負担限度額を設ける制度です。預貯金額等の要件(単身で1,000万円以下など)を満たし、市区町村から負担限度額認定証の交付を受けることで適用されます。
4-3. 高額医療・高額介護合算制度
世帯内で医療保険と介護保険の両方の自己負担が発生し、1年間(8月1日〜翌年7月31日)の合計額が所得基準ごとの自己負担限度額を超えた場合、申請により超過額が払い戻される制度です。70歳以上の場合、一般的な所得水準(年収約370万円〜770万円)での年間上限額は67万円に設定されています。
5. 施設選択に向けた事実のまとめ
厚生労働省などの各調査データが示す事実として、公的な介護保険施設(特別養護老人ホーム、老健、介護医療院)は入居一時金が不要であり、要介護度等に応じた入居条件が法令で厳格に定められています。中でも定員約59万人を有する特別養護老人ホームは費用を低く抑えられる反面、利用率が94.7%と高く、原則「要介護3」以上という入所基準が存在します。
一方、民間事業者が運営する有料老人ホーム(定員約64万人)やサービス付き高齢者向け住宅(登録約29万戸)は、施設数が公的施設を上回るペースで拡大しており、自立から要支援、要介護まで幅広い受け入れ態勢を整備しています。民間施設においては、入居一時金の平均が125万円、月額利用料の平均が16.7万円(住宅型有料老人ホームの中央値データに基づく)など、初期費用・月額負担が公的施設より高額になる傾向が存在します。
これらの統計事実と平均介護期間(4年7カ月)に基づき、要介護者本人の要介護度・認知症の有無・医療依存度、および自己負担限度額等の公的補助を含めた長期的な資力水準を算定した上で、要件に合致する施設を選定することが求められます。
参考データ・出典元一覧
- 厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」(令和5年等) 施設の定員数や利用者数などの公式統計データです。 URL:
[https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/119-1.html] - 厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索」 「サービスにかかる利用料」や「介護サービス概算料金の試算」、各種負担軽減制度についての公式情報ポータルです。 URL:
[https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/]※ 料金の目安や試算ツールは、上記サイト内の「介護サービスについて理解する」メニューから利用可能です。 - 国土交通省・厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」 全国のサ高住の登録戸数や、制度の仕組みについて公開している公式システムです。 URL:
[https://www.satsuki-jutaku.jp/] - 公益財団法人生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」 平均介護期間や、在宅・施設別の介護費用(一時費用・月額費用)の実態データです。 URL:
[https://www.jili.or.jp/research/zenkoku/] - さがしっくす(有料老人ホーム検索サイト) 民間施設における入居一時金や月額利用料の全国的な相場・中央値データ等の参考元です。 URL:
[https://www.sagasix.jp/]
